
建築費の高騰は中古一棟の価格にどう影響するか
羅 興开新規事業
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「建築費が上がっているから、中古の一棟物件も値上がりするのでは」。オーナーの方からよく聞かれる質問です。たしかに新築の建築コストは2021年度以降大きく上がりました。ただ、それが中古一棟の価格にそのまま反映されるかどうかは、物件の築年数や立地、買い手の融資条件によって変わります。
この記事では、国土交通省の建設工事費デフレーターと建築着工統計で建築費と新築供給の推移を確認し、Urbalyticsの一棟売出データ(直近12か月)とあわせて、新築が高くなると中古に何が起きうるかを整理します。最後に、保有中のオーナーが確認しておきたいことをまとめました。
この記事のポイント
- 建設工事費デフレーター(住宅総合、2020年度=100)は2025年度に122.6となり、2015年度の93.2から約32%、2020年度から約23%上昇しました(国土交通省、2026年6月30日付け、2023年度以降は暫定値)。
- 2025年の貸家の新設住宅着工は324,991戸で、前年比5.0%減と3年連続の減少でした(国土交通省「建築着工統計調査報告(令和7年計)」)。
- 東京5駅の一棟売出の表面利回り中央値は4.05〜5.33%でした(Urbalytics、2025年10月〜2026年10月、各34〜75件)。
建築費はどれだけ上がったか:建設工事費デフレーターの推移
建築費は、2021年度以降に上昇のペースが速まりました。建設工事費デフレーターは、国土交通省が建設工事の資材費や労務費などの価格変化をまとめた指数で、年度や月ごとの建設コストの水準を比べるのに使われます。
| 年度 | 住宅総合 | 木造住宅 | 鉄筋コンクリート住宅 | 非住宅総合 |
|---|---|---|---|---|
| 2015年度 | 93.2 | 93.5 | 92.3 | 92.4 |
| 2020年度 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 |
| 2021年度 | 108.7 | 110.3 | 105.2 | 104.0 |
| 2022年度 | 115.3 | 116.7 | 111.7 | 110.2 |
| 2023年度(暫定) | 114.9 | 114.8 | 113.9 | 113.3 |
| 2024年度(暫定) | 119.3 | 118.8 | 118.9 | 118.5 |
| 2025年度(暫定) | 122.6 | 122.3 | 122.1 | 121.6 |
出典:国土交通省「建設工事費デフレーター(2020年度基準)」年度別(2026年6月30日付け)。2020年度=100。2023年度以降は建設投資のウエイトに2020〜2022年度の平均値を暫定的に用いた値です。

2015年度から2020年度までの5年間で住宅総合は約7%の上昇でしたが、2020年度から2025年度までの5年間では約23%上がっています。2021〜2022年度は木造住宅の上昇が先行し、その後は鉄筋コンクリート住宅も追いついて、2025年度はどの構造も122前後に並びました。月次(2026年9月30日付け)では、2026年4〜6月の住宅総合が126.3〜127.1で推移しています。直近の7月分は136.0と大きく上がっていますが、月次の値はウエイトの見直しなどで改定されることがあるため、傾向は年度の値で見るほうが無難です。
新築の供給:貸家の着工は3年連続で減少
建築費の上昇と並行して、新しく建てられる賃貸住宅は減っています。国土交通省の建築着工統計によると、2025年(令和7年)の新設住宅着工戸数は740,667戸(前年比6.5%減)で、そのうち貸家は324,991戸(同5.0%減)と3年連続の減少でした。首都圏の貸家は前年比0.9%減で、全国よりは小さな減少にとどまっています(「建築着工統計調査報告(令和7年計)」、2026年1月30日公表)。
着工の減少には、建築費のほか金利や融資姿勢、法改正への対応など複数の要因があり、建築費だけで説明できるものではありません。ただ、オーナーにとっては「周辺で新しい競合物件がどれくらい増えるか」に関わる数字です。
中古一棟の売出価格と利回り(直近12か月)
一方で、中古の一棟物件はいまどの水準で売りに出ているのでしょうか。Urbalyticsで2025年10月〜2026年10月に掲載・価格変更のあった一棟売出物件(重複掲載を除く)を、東京5駅で集計しました。
| 駅 | 件数 | 利回り p25 | 中央値 | p75 | 売出価格の中央値 | 建物坪単価(12か月平均) | 四半期平均の幅 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 池袋 | 75件 | 3.97% | 4.81% | 5.56% | 2億2,200万円 | 393万円 | 376万〜412万円 |
| 高円寺 | 74件 | 4.07% | 4.59% | 5.26% | 1億8,000万円 | 361万円 | 326万〜406万円 |
| 亀戸 | 42件 | 4.37% | 5.33% | 6.71% | 3億3,450万円 | 356万円 | 320万〜391万円 |
| 赤羽 | 34件 | 4.22% | 4.80% | 6.58% | 1億7,100万円 | 290万円 | 274万〜324万円 |
| 三軒茶屋 | 55件 | 3.73% | 4.05% | 4.32% | 2億9,980万円 | 505万円 | 472万〜560万円 |
出典:Urbalytics 一棟(BUILDING)売出データ。集計期間2025年10月2日〜2026年10月2日、期間内に掲載・価格変更のあった物件(重複掲載を除く。利回り1%未満・25%超は除外)。利回りは掲載賃料÷売出価格の表面利回り。建物坪単価は土地込みの売出価格を建物面積(坪)で割った値で、四半期ごとの平均を件数で加重した12か月平均。四半期平均の幅は件数10件以上の四半期のみ。成約価格ではありません。集計日:2026年10月2日。

四半期ごとの平均坪単価は、同じ駅でも最大で約35万〜90万円の幅で上下しています。これはその期間にどんな物件(築年数・構造・広さ)が売りに出たかで平均が大きく変わるためで、この数字から値上がり・値下がりの傾向を読み取ることはできません。建築費の上昇が中古の価格にどう出ているかを見るには、築年数や構造をそろえた比較と、成約価格の確認が必要です。
新築が高くなると中古に何が起きうるか
建築費の上昇が中古一棟に与える影響は、価格を押し上げる方向と押し下げる方向の両方があり、物件ごとに差が出ます。主な経路は次の4つです。
- 新築との比較:建築費の上昇分を賃料に転嫁しきれなければ、新築の利回りは低くなります。その場合、利回りを重視する買い手が築浅〜中古に目を向ける場面が増える可能性があります。
- 積算評価:金融機関の積算評価は、建物を「いま建て直すといくらか」という再調達価格から計算します。再調達の単価が見直されれば、築浅の建物ほど評価が上がる方向に働く可能性があります。ただし単価は金融機関ごとに異なります。
- 新規供給の減少:貸家の着工が減れば、周辺の新しい競合物件が増えにくくなり、既存物件の入居や賃料を支える要因になりえます。
- 修繕・建替えコストの上昇:反対に、大規模修繕や原状回復の費用も上がっています。築古の物件では修繕費が収支を圧迫し、建替え前提で土地として評価される場合は解体費・建築費の上昇が価格を押し下げる方向に働きます。
さらに、価格には金利や賃料水準も大きく影響します。利回りと金利の関係は表面利回りと金利のスプレッドで市況を読む記事で整理しています。建築費だけで中古の価格が決まるわけではない、という前提で見ておくのが現実的です。
保有中のオーナーが確認しておきたいこと
建築費の動きを自分の物件に当てはめるには、次の4点を確認しておくと判断しやすくなります。
- 再調達価格と火災保険:いま同じ建物を建てるといくらかかるかを把握し、火災保険の保険金額が建築費の上昇に見合っているかを保険会社に確認します。
- 修繕計画の見積:数年前の修繕見積は、現在の単価では不足している可能性があります。外壁・屋上防水・給排水など、次の大規模修繕の見積を更新しておきます。
- 周辺の新築供給と賃料:近隣で新築の賃貸が増えているか、募集賃料がどう動いているかを確認します。
- 積算と収益の両面での評価:売却を考える場合、買い手の融資額は積算評価と収益評価の両方で決まります。考え方は収益物件の価格と銀行評価の関係の記事で解説しています。
建築費の上昇が自分の物件の評価にどう影響しているかは、個別に確認するしかありません。査定の考え方は一棟アパートの査定額の記事で解説しているほか、無料査定では現在の賃料と周辺の売出・成約事例から価格の目安をお出ししています。
よくある質問
Q. 建築費が上がると中古の一棟物件も値上がりしますか?
一概には言えません。新築との比較や積算評価では押し上げる方向に働く可能性がある一方、修繕費や建替え費の上昇は押し下げる方向に働きます。金利や賃料の影響も大きく、築年数・構造・立地によって結果は変わります。
Q. 建設工事費デフレーターとは何ですか?
国土交通省が公表している、建設工事にかかる費用の価格変化を示す指数です。2020年度を100とした住宅総合は、2025年度に122.6(暫定値)でした。
Q. 建築費の上昇で火災保険を見直す必要はありますか?
保険金額が再調達価格を下回ると、損害時に十分な補償を受けられない場合があります。契約時から建築費が上がっている場合は、保険会社や代理店に保険金額の妥当性を確認することをおすすめします。
Q. 新築の供給は減っているのですか?
全国の貸家の新設着工は2025年に324,991戸で、3年連続の減少でした(国土交通省)。首都圏の貸家は前年比0.9%減で、減少幅は全国より小さくなっています。
まとめ
- 建設工事費デフレーター(住宅総合)は2020年度の100から2025年度に122.6(暫定)へ上昇し、5年間で約23%の上昇でした。
- 2025年の貸家の着工は324,991戸で前年比5.0%減、3年連続の減少です。
- 東京5駅の一棟売出の表面利回り中央値は4.05〜5.33%で、平均坪単価は物件構成で四半期ごとに大きく動くため、傾向の判断には築年数や構造をそろえた比較が必要です。
- 建築費の上昇は中古一棟の価格を押し上げる方向と押し下げる方向の両方に働くため、再調達価格・修繕見積・周辺供給・融資評価の4点を自分の物件で確認するのが現実的です。
アイキャッチ画像(イメージ):Photo: Samuel Regan-Asante / Unsplash
この記事について
- 執筆
- 羅 興开(新規事業)
都市不動産開発とインフラ投資領域で 10 年以上の実績を持つ事業開発のスペシャリスト。アリババ・ハネウェルにて、中国大手国有交通事業者向けの大規模再開発プロジェクトおよびスマートビルディング・ソリューションの導入を統括。デューデリジェンス、土地取得、ストラクチャリングから竣工後のアセットマネジメントまで、開発バリューチェーン全般を熟知。TLL では新規事業開発と海外投資家向けプロジェクト組成をリードし、ホテル・レジデンス・複合開発案件を推進。
プロフィールを見る → - 運営
- TLL合同会社宅地建物取引業 東京都知事(1)第108202号住宅宿泊管理業 国土交通大臣(01)第F03424号
記事中のデータは出典と集計時点を明記しています。相場や制度は変わることがあるため、個別の判断は最新情報と専門家へのご相談のうえで行ってください。









