一棟アパートの査定額はどう決まる? 収益還元法の考え方と東京7駅の利回り相場
「うちのアパート、今売ったらいくらになるのだろう」。相続や借入の返済、大規模修繕の見積もりをきっかけに、こう考え始めるオーナー様は少なくありません。ところが一棟アパートの価格は、同じ広さ・同じ築年数でも数千万円単位で開くことがあり、周辺の戸建やマンションの相場を見ても見当がつきにくいのが実情です。
この記事では、一棟アパートの査定額がどのような考え方で決まるのかを整理したうえで、Urbalytics に蓄積された東京都内の売出データから、駅ごとの利回り相場を紹介します。査定を依頼する前に「おおよその幅」をつかむための材料としてお使いください。
この記事のポイント
- 一棟アパートの価格は「年間の収益 ÷ 利回り」が基本で、査定では経費を差し引いた実質的な収益が重視されます。
- 東京7駅の一棟ものの表面利回り中央値は、三軒茶屋の4.1%から北千住の5.5%まで開きがあります(2026年9月、Urbalytics 売出データ)。
- 年間賃料1,000万円の物件なら、利回り4.1%と5.5%で価格に約6,000万円の差が生まれます。
一棟アパートの価格は「家賃 ÷ 利回り」が基本
自宅用の戸建やマンションは、近くで似た物件がいくらで売れたか(取引事例)を中心に価格が決まります。一方、一棟アパートの買い手の多くは投資家です。投資家が知りたいのは「この物件は年間いくら稼ぐのか」「その稼ぎに対して価格は妥当か」という点なので、査定も収益から逆算する方法(収益還元法)が中心になります。
もっとも基本的な考え方は次の式です。
価格 = 年間の収益 ÷ 利回り(還元利回り)
ここで使う「収益」と「利回り」には、次の2つの見方があります。
- 表面利回り:満室時の年間賃料 ÷ 価格。売出広告に載っているのはほとんどがこの数字です。
- 実質利回り(NOI利回り):年間賃料から空室損・管理費・固定資産税・修繕費などの経費を差し引いた純収益 ÷ 価格。実際の査定や金融機関の評価では、こちらが重視されます。
つまり査定額を左右するのは、①実際にいくら稼げるか(賃料と経費)と、②そのエリア・その物件に買い手が求める利回りは何%かの2点です。①が同じでも②が1%違えば、価格は大きく変わります。
東京7駅の利回り相場(2026年9月時点)
では、②の「買い手が求める利回り」は場所によってどれくらい違うのでしょうか。Urbalytics が収集している東京都内の一棟もの(アパート・マンション・ビル)の売出データから、7駅周辺の表面利回りを集計しました。
| 駅(区) | 集計件数 | 表面利回り 中央値 | 表面利回り 平均 |
|---|---|---|---|
| 三軒茶屋(世田谷区) | 135件 | 4.1% | 4.5% |
| 錦糸町(墨田区) | 85件 | 4.3% | 5.1% |
| 中野(中野区) | 122件 | 4.6% | 4.9% |
| 池袋(豊島区) | 167件 | 4.7% | 5.1% |
| 蒲田(大田区) | 131件 | 5.1% | 5.5% |
| 赤羽(北区) | 92件 | 5.4% | 5.8% |
| 北千住(足立区) | 177件 | 5.5% | 5.9% |
出典:Urbalytics 売出データ(東京都内の一棟もの=アパート・マンション・ビルを含む。2025年以降の売出情報のうち年間想定賃料の記載があるもの。2026年9月29日集計)。表面利回り=売出時の年間想定賃料 ÷ 売出価格。
集計には鉄筋コンクリート造の一棟マンションや店舗ビルも含まれます。木造・軽量鉄骨の一棟アパートに絞ると、築年数が古く融資期間が短くなりやすい分、利回りはこの表より高めに出る傾向があります。
ここから読み取れる傾向は次のとおりです。
- 人気の住宅地・都心寄りほど利回りは低い(=価格は高い)。三軒茶屋・錦糸町・中野・池袋は4%台前半〜半ばに集まっています。
- 城北・城東の外側ほど利回りは高い。赤羽・北千住は5%台半ばで、同じ家賃でも価格は抑えめに評価されます。
- 平均が中央値より高いのは、築古や再建築不可など利回りが10%を超える物件が一部に含まれ、平均を押し上げているためです。相場感をつかむには中央値を見るのが適しています。
なお、これは「売出価格」をもとにした数字です。実際の成約価格は交渉を経て売出価格より下がることが多く、成約ベースの利回りはこの表よりやや高くなる傾向があります。
同じ家賃でも、場所が違えば査定額は数千万円変わる
利回りの差が価格にどう効くのか、単純な例で確かめてみます。満室時の年間賃料が1,000万円のアパートを、上の表の中央値で割り戻すと次のようになります。
| 想定する利回り | 該当する駅の目安 | 価格の目安(1,000万円 ÷ 利回り) |
|---|---|---|
| 4.1% | 三軒茶屋 | 約2億4,400万円 |
| 4.7% | 池袋 | 約2億1,300万円 |
| 5.1% | 蒲田 | 約1億9,600万円 |
| 5.5% | 北千住 | 約1億8,200万円 |
家賃収入がまったく同じでも、4.1%と5.5%では約6,000万円の開きが生まれます。逆に言えば、同じエリアの中で利回りを0.5%でも低く(価格を高く)評価してもらえるかどうかが、売却価格を大きく左右します。
※上記は表面利回りによる単純計算で、実際の査定額を示すものではありません。実際には経費、空室、築年数、建物の状態などを個別に反映します。
利回り以外で査定額が上下するポイント
同じ駅・同じ家賃でも査定額に差がつく主な要因は、次のとおりです。
1. 賃料が相場どおりか
現在の賃料が周辺相場より高い部屋は、退去後に同じ賃料で埋まらない可能性があります。査定では、足元の賃料だけでなく相場賃料で引き直した収益も確認します。長期入居の部屋が相場より安い場合は、逆に上振れ要素になり得ます。
2. 築年数と構造(融資の付きやすさ)
一棟アパートの買い手の多くは融資を利用します。金融機関は建物の法定耐用年数(住宅用で木造22年、鉄骨造は骨格材の厚みにより19年(3mm以下)・27年(3mm超4mm以下)・34年(4mm超)、鉄筋コンクリート造47年)をもとに融資期間を考えることが多く、残りの年数が短いほど借入期間が短くなり、買い手が限られます。築古の木造アパートの利回りが高めになるのはこのためです。
3. 空室と修繕の状況
空室が多い、外壁や屋根の修繕時期が近い、といった物件は、買い手が購入後にかかる費用を差し引いて価格を考えます。修繕履歴が書面で残っていると、状態を正しく評価してもらいやすくなります。
4. 法令・権利関係
容積率・建ぺい率の超過、接道条件を満たさない(再建築不可)、借地権といった物件は、融資が付きにくいため価格が下がりやすくなります。ただし、こうした物件でも買取を専門とする会社であれば取り扱えることがあります。
土地値が価格を下支えするケース
収益還元法と並んで確認されるのが、土地と建物の価値を積み上げる考え方(原価法・積算価格)です。金融機関はこの積算価格を担保評価の目安にすることが多いため、土地値が高い物件は融資が付きやすく、買い手が集まりやすくなります。
特に建物が古い物件では、収益から計算した価格より土地としての価格のほうが高くなることもあります。この場合、アパートとしてではなく土地(建替え・更地)の買い手に向けて売ったほうが高くなる可能性があり、どちらの見方で売るかによって査定額が変わります。
査定を依頼する前に用意しておくと早いもの
次の資料があると、机上査定でも精度の高い金額を出しやすくなります。すべて揃っていなくても査定は可能です。
- レントロール(部屋ごとの賃料・契約開始日・空室状況の一覧)
- 固定資産税・都市計画税の納税通知書、または評価証明書
- 登記簿謄本(土地・建物)、公図・測量図
- 建物の図面、検査済証の有無がわかるもの
- 修繕の履歴(外壁・屋根・給排水など)と、その見積書
- 管理会社との管理委託契約書
売却前に空室を埋めたり、賃料設定を見直したりすることで評価が改善することもあります。売るか持ち続けるかを含めて検討したい場合は、賃貸管理・運用のご相談もご活用ください。
よくある質問
Q. 一棟アパートの査定は無料ですか?
多くの不動産会社では、査定そのものに費用はかかりません(TLLの無料査定も同様です)。測量や不動産鑑定士による鑑定評価を別途依頼する場合は、その費用が発生します。レントロールやチラシなどの資料があれば、机上査定でも精度の高い金額を出しやすくなります。
Q. 査定は表面利回りと実質利回りのどちらで計算されますか?
相場の目安には表面利回りが使われますが、実際の査定では空室損・管理費・固定資産税・修繕費などを差し引いた実質的な収益(NOI)が重視されます。経費が少ない物件ほど、同じ家賃でも高く評価されます。
Q. 東京では区によって利回り相場はどれくらい違いますか?
Urbalytics の売出データ(2026年9月)では、一棟ものの表面利回り中央値は三軒茶屋(世田谷区)で4.1%、池袋(豊島区)で4.7%、北千住(足立区)で5.5%でした。都心寄り・人気の住宅地ほど利回りは低く、価格は高く評価される傾向があります。
Q. 築古の木造アパートや再建築不可の物件でも売れますか?
条件次第で売却できる可能性はありますが、融資が付きにくいため買い手が限られ、利回りは高め(価格は低め)に評価されやすくなります。土地としての価値が高い場合は、建替え・更地としての売却を検討する余地もあります。
まとめ
- 一棟アパートの価格は「年間の収益 ÷ 利回り」が基本。査定では経費を差し引いた実質的な収益が重視されます。
- 東京都内の一棟ものの売出データでは、表面利回りの中央値は三軒茶屋の4.1%から北千住の5.5%まで開きがあります(2026年9月時点)。
- 同じ家賃1,000万円でも、利回り4.1%と5.5%では価格に約6,000万円の差が生まれます。
- 賃料の妥当性、築年数と融資、空室・修繕、法令・権利関係、土地値によっても査定額は上下します。
相場はあくまで目安です。お持ちの物件の正確な価格は、賃料や建物の状態を踏まえた個別の査定で確認されることをおすすめします。TLLでは、成約・売出データをもとにした無料査定を受け付けています。チラシや資料を添付するだけでもお申し込みいただけます。
アイキャッチ写真:Ryan Rivers / Unsplash
この記事について
- 執筆
- 運営
- TLL合同会社宅地建物取引業 東京都知事(1)第108202号住宅宿泊管理業 国土交通大臣(01)第F03424号
記事中のデータは出典と集計時点を明記しています。相場や制度は変わることがあるため、個別の判断は最新情報と専門家へのご相談のうえで行ってください。

