
空室対策としてのリノベーション|いくらかけて何年で回収できるか、工事内容別の費用と東京3駅の賃料で試算
栗原 瑞樹(宅地建物取引士)PM事業
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退去のたびに空室が長引く部屋があると、「いっそリノベーションをすれば決まるのでは」と考えるオーナー様は多いと思います。ただ、工事は数十万円から数百万円の支出になり、賃料が上がらなければ回収にとても長い時間がかかります。
賃料の見直しや広告料(AD)、入居条件の広げ方はアパートの空室対策の記事で整理しました。この記事はその続きとして、「工事にいくらかけて、何年で取り戻せるか」という投資判断に絞って解説します。費用はTLLが受領した工事見積の単価から、賃料はUrbalyticsの募集データから試算しています。
この記事のポイント
- 1K・25㎡の住戸では、クロス・床などの表層リフレッシュが税込25〜35万円前後、ユニットバス・キッチンの入替まで含めると150〜200万円前後が目安です(TLL受領見積の標準単価から試算、2026年10月)。
- 中野・北千住・蒲田の1K(20〜30㎡、徒歩10分以内)の募集賃料は、下位25%と上位25%の差が中野で4.5万円、北千住で2.3万円と駅によって大きく異なります(Urbalytics、2025年10月〜2026年10月、重複除外)。
- 中野の試算では、表層・設備の改修は約4年、水回り入替以上は6〜7年で回収する計算になり、工事を大きくするほど賃料の上がり幅に対して回収が長くなります。
空室対策のリノベーションは「賃料差」と「空室の短縮」で回収する
リノベーションの効果は、①賃料を上げられること、②空室期間が短くなること、の2つに分けて考えると判断しやすくなります。工事費をこの2つの合計で割ったものが、おおよその回収期間です。
単純回収期間(月)= 工事費 ÷(月額賃料の上昇分 + 空室短縮による月平均の増収)
空室短縮の効果は、入居者の入れ替わりの頻度で変わります。たとえば平均4年(48か月)で入れ替わる部屋で、毎回の空室が3か月から1か月に縮むなら、2か月分の賃料を48か月で割った額が、月あたりの増収になります。賃料アップだけで計算すると効果を小さく見積もり、空室短縮を大きく見込みすぎると甘い計画になるため、両方を分けて置くのがポイントです。
なお、壁紙の張替えなど入居者の退去ごとに行う原状回復は、リノベーションをしなくても発生する費用です。比較するときは「原状回復だけで済ませた場合」との差額で考えると、追加投資の効果がはっきりします。
工事内容別の費用目安(1K・25㎡の場合)
TLLが2021〜2026年に受領した工事見積(工事系134件)から作った標準単価を、1K・25㎡の住戸に当てはめると、費用の目安は次のとおりです。諸経費・処分費として小計の12%、消費税10%を含めた税込の概算で、実際の金額は建物の状態や仕様で±20%程度は動きます。
| 工事の段階 | 主な内容 | 費用目安(税込) |
|---|---|---|
| ①表層リフレッシュ | クロス全面張替(約80㎡)、床のフロアタイル上張り、クッションフロア、巾木、照明・プレート交換、クリーニング | 25〜35万円前後 |
| ②設備更新まで | ①+洗面化粧台、温水洗浄便座、混合水栓、換気扇、エアコンの交換 | 50〜70万円前後 |
| ③水回り入替まで | ②+ユニットバス入替、キッチン交換 | 150〜200万円前後 |
| ④間取り変更(スケルトン) | 内装解体のうえ配管・電気・間仕切りからやり直す | 250万円前後〜 |
出典:TLL合同会社が受領した工事見積の単価集計(2021〜2026年、東京23区・多摩・埼玉南部の実績)から試算。④はスケルトン改装実績の1室あたり原単位を参考値として掲載。集計日:2026年10月2日。
単価の例では、量産クロスの張替が1㎡あたり950円前後、フロアタイルの上張りが4,800円前後、ユニットバスの入替が一式63.5万円前後です(いずれも税抜の標準単価)。見積を受け取ったら、「一式」と書かれた項目が全体の3割を超えていないか、クロスの面積が床面積の3〜3.5倍程度に収まっているかを確認すると、金額の妥当性を判断しやすくなります。
同じ駅・同じ面積の賃料はどこまで上がる余地があるか
リノベーション後の賃料は、同じ駅・同じ広さの部屋の賃料分布のどこに位置づけられるかで決まります。分布の幅が広い駅ほど、内装や設備の差が賃料に反映されやすいと考えられます。
| 駅(徒歩10分以内) | 件数 | 下位25% | 中央値 | 上位25% | 下位25%と上位25%の差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 中野 | 221件 | 8.5万円 | 10.3万円 | 13.0万円 | 4.5万円 |
| 北千住 | 177件 | 8.6万円 | 9.9万円 | 10.9万円 | 2.3万円 |
| 蒲田 | 466件 | 9.6万円 | 11.3万円 | 13.1万円 | 3.5万円 |
出典:Urbalytics 賃料データ。2025年10月2日〜2026年10月2日に掲載された東京都内の募集のうち、各駅徒歩10分以内・専有20〜30㎡の住戸(区分マンションのほかアパート住戸を含む)。同一建物・同面積・同賃料の重複掲載を除外(中野37件、北千住16件、蒲田58件)。募集(掲載)賃料であり成約賃料ではありません。集計日:2026年10月2日。

上位25%には築浅の物件も含まれるため、築古の部屋をリノベーションしても上位25%の水準まで届くとは限りません。目安としては、「いまの賃料が下位25%付近なら、改修で中央値付近を狙えるか」を検討するのが現実的です。中野なら下位25%から中央値まで1.8万円、北千住なら1.3万円の差があります。
回収期間の試算表:中野の1Kで比べると
中野の1K・25㎡で、現在の賃料が下位25%の8.5万円、毎回の空室が3か月、平均4年で入れ替わる住戸を想定して試算しました。工事後の賃料と空室期間は仮定であり、成約を約束するものではありません。
| 工事の段階 | 工事費(仮定) | 工事後の賃料(仮定) | 空室期間(仮定) | 月あたりの効果 | 単純回収期間 |
|---|---|---|---|---|---|
| ①表層リフレッシュ | 28万円 | 8.8万円(+0.3万円) | 3か月→1.5か月 | 約0.58万円 | 約4.1年 |
| ②設備更新まで | 59万円 | 9.3万円(+0.8万円) | 3か月→1か月 | 約1.19万円 | 約4.1年 |
| ③水回り入替まで | 172万円 | 10.3万円(+1.8万円) | 3か月→1か月 | 約2.23万円 | 約6.4年 |
| ④間取り変更 | 250万円 | 11.0万円(+2.5万円) | 3か月→1か月 | 約2.96万円 | 約7.0年 |
出典:工事費はTLL受領見積の標準単価から試算、賃料はUrbalytics 賃料データ(中野・221件、2025年10月〜2026年10月)を参照。月あたりの効果=賃料上昇分+(空室短縮月数×工事後賃料÷48か月)。税金・借入金利・工事中の空室は考慮していません。集計日:2026年10月2日。

この試算からわかるのは、工事を大きくしても賃料の上がり幅がそれに比例しない限り、回収期間は長くなるということです。5年(60か月)で回収するには、①なら月0.47万円、②なら0.98万円、③なら2.87万円、④なら4.17万円の効果が必要になります。北千住のように賃料分布の幅が2.3万円程度の駅では、③④の工事を賃料だけで回収するのは難しく、表層や設備の改修にとどめる判断も合理的です。
リノベーションの投資判断の手順
工事を決める前に、空室の理由が「部屋の古さ」なのか「賃料や条件」なのかを切り分けることが出発点です。賃料が相場より高いだけなら、工事より先に条件を見直すほうが早く決まる場合があります。

- 空室の理由を分ける:内見数が少ないなら募集条件や写真、内見はあるのに決まらないなら部屋の状態が原因の可能性が高いと考えます。
- 同駅・同面積の賃料を見る:いまの賃料が分布のどこにあるかを確認し、改修後に狙う位置を決めます。
- 工事の範囲を決める:上の4段階のどこまで行うかを、回収期間の目安から逆算します。
- 見積を2〜3社で取る:仕様と数量をそろえて比べます。同じ工事でも業者によって金額に大きな差が出ることがあります。
- 回収期間を試算する:賃料差と空室短縮を分けて、控えめな仮定で計算します。
- 募集後に検証する:反響数と成約賃料を記録し、次の住戸の判断材料にします。
また、税務上は工事の内容によって、一度に経費にできる「修繕費」になるか、減価償却する「資本的支出」になるかが分かれます。回収期間の計算とは別に、税理士へ確認しておくと手取りの見通しが立てやすくなります。
よくある質問
Q. 築古のアパートでもリノベーションで賃料は上がりますか?
上がる余地は駅ごとの賃料分布の幅で変わります。築古の部屋は上位25%の水準には届きにくいため、まずは下位25%から中央値付近を目標に、費用を抑えた改修から検討するのが現実的です。
Q. 回収期間は何年以内なら投資してよいと考えればよいですか?
一律の基準はありませんが、次の大きな修繕や売却の予定より前に回収できるかが一つの目安です。売却を数年内に考えているなら、表層や設備の改修にとどめる判断もあります。
Q. 一部屋だけリノベーションして効果を確かめてもよいですか?
はい。まず一部屋で反響数と成約賃料を確認し、効果が見えてから他の部屋に広げる進め方は、費用のリスクを抑えられます。
Q. リノベーション費用は経費にできますか?
内容と金額によって、その年の修繕費になるものと、資本的支出として減価償却するものに分かれます。判断は工事ごとに異なるため、税理士にご確認ください。
まとめ
- リノベーションは「賃料差」と「空室の短縮」の2つで回収する前提で、工事費をその合計で割って回収期間を見積もります。
- 1K・25㎡の目安は、表層リフレッシュが税込25〜35万円前後、水回り入替まで150〜200万円前後です(TLL受領見積の単価から試算)。
- 1K(20〜30㎡)の賃料分布の幅は中野4.5万円、北千住2.3万円、蒲田3.5万円と駅で異なり、幅が狭い駅ほど大きな工事は回収しにくくなります。
- 中野の試算では表層・設備の改修が約4年、水回り入替以上が6〜7年で、工事を大きくするほど回収は長くなります。
TLLの管理代行・アセットマネジメントでは、空室の原因の切り分けから、工事の範囲・見積の確認、募集条件の見直しまで一体でご相談いただけます。
この記事について
- 執筆
- 栗原 瑞樹(PM事業)保有資格:宅地建物取引士・FP2級・管理業務主任者・賃貸不動産経営管理士
賃貸管理と分譲マンション管理の実務経験をもとに、オーナー対応から修繕・契約管理までを担当する。 日本管財住宅管理などで、プロパティマネジメントに10年以上従事。オーナー・入居者対応、賃貸借契約の管理、修繕対応に加え、分譲マンションの理事会・総会運営も経験してきた。宅地建物取引士、管理業務主任者、賃貸不動産経営管理士などの資格を持つ。 管理業務では、日々の対応と建物を長く保有するための準備を両立させることを重視している。コラムでは、管理会社変更時の引継ぎ、原状回復の費用負担、大規模修繕や設備更新を具体的に解説。オーナーが費用・必要性・実施時期を整理して判断できるよう、管理の実務をわかりやすく伝える。
プロフィールを見る → - 運営
- TLL合同会社宅地建物取引業 東京都知事(1)第108202号住宅宿泊管理業 国土交通大臣(01)第F03424号
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