
賃貸物件で入居者が亡くなったら|事故物件の告知義務の範囲とオーナーの初動、賃料・売却への影響
栗原 瑞樹(宅地建物取引士)PM事業
約9分で読めます
賃貸物件の入居者が室内で亡くなることは、単身世帯や高齢の入居者が増えるなかで、どのオーナー様にも起こりうることです。突然の連絡に動揺するなかでも、警察・ご遺族への対応、契約や残された家財の整理、次の入居者への説明と、判断しなければならないことが続きます。
この記事では、国土交通省が2021年10月に策定した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」の内容を中心に、告知が必要な範囲と期間の考え方、オーナーの初動の流れ、特殊清掃・残置物・保険の確認点、そして賃料や売却への影響を整理します。亡くなった方とご遺族への配慮を前提に、実務の手順として解説します。
この記事のポイント
- 国交省ガイドライン(2021年10月)では、老衰・病気などの自然死や、転倒・誤嚥などの日常生活の中での不慮の死は、原則として告げなくてもよいとされています。ただし長期間発見されず特殊清掃などが行われた場合は別の扱いです。
- 賃貸では、自然死以外の死や特殊清掃などが行われた死について、発生(発覚)から概ね3年が経過した後は原則として告げなくてもよいとされています。売買にはこの期間の目安がありません。
- 中野の1K(20〜30㎡)中央値10.3万円の住戸で、賃料を20%下げて3年間貸した場合の減収は約74万円という試算になります(Urbalytics 賃料データ、2026年10月)。
告知義務の考え方:国交省ガイドラインの範囲
ガイドラインは、宅地建物取引業者が取引の相手方に対して、過去に人の死があったことをどこまで告げるべきかについて、現時点で妥当と考えられる一般的な基準を示したものです。対象は住宅として使われる不動産(居住用不動産)です。オーナー自身が直接の対象ではありませんが、管理会社や仲介会社はこの基準で告知書の記載を求めるため、オーナーも内容を理解しておく必要があります。
| ケース | 賃貸 | 売買 |
|---|---|---|
| 自然死(老衰・病死など)、日常生活の中での不慮の死(転倒・入浴中の事故・誤嚥など) | 原則として告げなくてもよい | 原則として告げなくてもよい |
| 上記の死で、長期間発見されず特殊清掃や大規模リフォームなどが行われた場合 | 発覚から概ね3年経過後は原則として告げなくてもよい | 期間の目安なし(判断に重要な影響を及ぼす場合は告げる) |
| 上記以外の死(自死・他殺・事故など) | 発生から概ね3年経過後は原則として告げなくてもよい | 期間の目安なし(判断に重要な影響を及ぼす場合は告げる) |
| 隣の住戸や、日常生活で通常使わない共用部分で起きた場合 | 原則として告げなくてもよい | 原則として告げなくてもよい |
出典:国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(2021年10月)をもとにTLL作成。いずれも事件性・周知性・社会に与えた影響などが特に高い事案は除きます。
あわせて押さえておきたいのが、次の2点です。まず、どのケースでも、借主・買主から事案の有無を聞かれた場合や、社会的な影響の大きさから把握しておくべき特段の事情がある場合は、経過期間や死因にかかわらず告げる必要があるとされています。次に、ベランダや、共用の玄関・エレベーター・廊下・階段のうち日常的に使う部分で起きた場合は、その住戸と同様に扱われます。
告げる場合も、伝えるのは発生(発覚)時期、場所、死因、特殊清掃などを行った旨で、氏名や年齢、具体的な発見状況などを伝える必要はないとされています。亡くなった方やご遺族の名誉と生活の平穏への配慮が求められます。
入居者が亡くなったときのオーナーの初動
最初にすべきことは、オーナーや管理会社が単独で部屋に入らず、警察や緊急連絡先に連絡することです。そのうえで、契約関係と室内の家財を、相続人の方と順に整理していきます。

- 異変の連絡を受ける:郵便物がたまっている、連絡が取れない、においがするといった連絡が近隣や保証会社から入るのがきっかけになることがあります。
- 警察・緊急連絡先へ:安否確認のための入室は、警察や緊急連絡先の立会いのもとで行います。
- 相続人・保証人に連絡:連帯保証人や家賃保証会社にも連絡し、契約内容と保証の範囲を確認します。
- 契約の終了手続き:賃借権は相続の対象になるため、契約の解約は相続人と合意して進めます。
- 残置物の整理:室内の家財は相続人の財産です。オーナーの判断だけで処分すると、後でトラブルになるおそれがあります。
- 特殊清掃・原状回復:必要に応じて消臭・消毒や内装工事を行います。
- 再募集と告知の判断:ガイドラインに沿って、告知の要否と内容を管理会社・仲介会社と整理します。
特殊清掃・残置物・原状回復で確認すること
発見までに時間がかかった場合は、通常のハウスクリーニングでは対応できず、専門業者による特殊清掃や消臭が必要になることがあります。費用は汚損の程度や範囲で大きく変わるため、作業範囲を明記した見積を複数社から取って比べるのが安心です。
特殊清掃の後に行う内装工事は、通常の原状回復と同じ単価で考えられます。TLLが受領した工事見積の単価では、量産クロスの張替が1㎡あたり950円前後、クッションフロアが2,800円前後、床のフロアタイル上張りが4,800円前後、ユニットバスの入替が一式63.5万円前後です(いずれも税抜の標準単価)。1R・1Kの原状回復の総額は、税込15〜30万円が目安です(2021〜2026年の受領見積の実績)。床下地や配管まで交換が及ぶと、これを大きく上回ることがあります。
残置物については、2021年6月に国土交通省と法務省が「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を公表しています。単身の高齢の方(原則60歳以上)の入居時に、亡くなった後の契約解除と家財の処分を受任者に任せる契約をあらかじめ結んでおくもので、これから入居する方との契約で検討する価値があります。
保険で確認すること
オーナー向けには、入居者が室内で亡くなった場合の原状回復費用や、空室・賃料減額による損失を補償する保険や特約があります。補償の対象(自然死を含むか、発見までの日数の条件など)や上限額は商品ごとに異なるため、加入中の火災保険の特約と、保険会社の約款を確認しておきましょう。家賃保証会社の保証範囲に、こうした場合の原状回復費用が含まれるかもあわせて確認すると安心です。
賃料への影響:告知期間中の減収を試算する
告知が必要な住戸では、賃料を下げて募集することがあります。どの程度下げるかは、事案の内容、立地、部屋の状態、募集時期によって大きく異なり、一律の相場はありません。ここでは、賃貸で告知の目安とされる概ね3年間を想定し、減額幅ごとの減収を試算しました。
| 減額幅(仮定) | 月額賃料 | 月の減収 | 3年間(36か月)の減収 |
|---|---|---|---|
| 10% | 9.27万円 | 1.03万円 | 約37.1万円 |
| 20% | 8.24万円 | 2.06万円 | 約74.2万円 |
| 30% | 7.21万円 | 3.09万円 | 約111.2万円 |
出典:Urbalytics 賃料データ(中野駅徒歩10分以内・20〜30㎡、2025年10月2日〜2026年10月2日に掲載された募集、重複除外221件、中央値10.3万円)をもとにTLLが試算。減額幅は仮定で、実際の水準を示すものではありません。空室期間の延長は含みません。集計日:2026年10月2日。

実際には、減額に加えて募集期間が延びることもあります。一方で、内装を一新し、告知内容を事実に沿って丁寧に説明することで、通常に近い条件で入居が決まる例もあります。賃料を下げる前に、部屋の状態を整えることと、告知の書き方を管理会社と相談することが大切です。
売却への影響と考え方
売買には、賃貸の「概ね3年」のような期間の目安がありません。自然死・日常生活の中での不慮の死以外の事案や、特殊清掃などが行われた事案は、買主の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合には、経過期間にかかわらず告げる必要があります。告げずに売却すると、後で契約不適合などをめぐる紛争につながるおそれがあるため、売主として知っている事実は告知書に正確に記載しておきます。
価格への影響は物件と事案によって異なりますが、一般の買主だけでなく、事情のある物件の取扱いに慣れた買取業者も選択肢になります。告知事項のある物件や築古物件の売却の考え方は、再建築不可・借地権・築古アパートの売却記事でも整理しています。
よくある質問
Q. 入居者が病気で亡くなり、すぐに発見された場合も告知が必要ですか?
ガイドラインでは、老衰や病気などの自然死は、賃貸・売買とも原則として告げなくてもよいとされています。ただし、借主から聞かれた場合は事実を告げる必要があります。
Q. 賃貸の告知はいつまで必要ですか?
自然死以外の死や、特殊清掃などが行われた死は、発生(発覚)から概ね3年が経過すれば原則として告げなくてもよいとされています。事件性や社会的な影響が特に高い事案は例外です。
Q. 残された家具や荷物はオーナーが処分してよいですか?
室内の家財は相続人の財産なので、相続人の同意を得てから処分します。今後の契約では、国交省・法務省のモデル契約条項を使う方法もあります。
Q. 次の入居者の賃料はどのくらい下げるものですか?
一律の相場はなく、事案・立地・部屋の状態で変わります。中野の1K中央値10.3万円の住戸なら、20%減額で3年間の減収は約74万円という試算になります。
まとめ
- 国交省ガイドライン(2021年10月)では、自然死や日常生活の中での不慮の死は原則として告知不要とされ、特殊清掃などが行われた場合は別の扱いです。
- 賃貸では自然死以外の死や特殊清掃などが行われた死も、概ね3年経過後は原則として告知不要とされますが、聞かれた場合や社会的影響が大きい場合は告げる必要があります。
- 初動は単独で入室せず警察・緊急連絡先へ連絡し、契約と残置物は相続人と合意して整理します。
- 中野の1K中央値10.3万円の住戸で賃料を20%下げて3年間貸すと、減収は約74万円という試算です。
TLLの管理代行・アセットマネジメントでは、入居者が亡くなった際の関係者への連絡、原状回復の手配、再募集の条件づくりまでご相談いただけます。
アイキャッチ画像(イメージ):Photo: Hans Eiskonen / Unsplash
この記事について
- 執筆
- 栗原 瑞樹(PM事業)保有資格:宅地建物取引士・FP2級・管理業務主任者・賃貸不動産経営管理士
賃貸管理と分譲マンション管理の実務経験をもとに、オーナー対応から修繕・契約管理までを担当する。 日本管財住宅管理などで、プロパティマネジメントに10年以上従事。オーナー・入居者対応、賃貸借契約の管理、修繕対応に加え、分譲マンションの理事会・総会運営も経験してきた。宅地建物取引士、管理業務主任者、賃貸不動産経営管理士などの資格を持つ。 管理業務では、日々の対応と建物を長く保有するための準備を両立させることを重視している。コラムでは、管理会社変更時の引継ぎ、原状回復の費用負担、大規模修繕や設備更新を具体的に解説。オーナーが費用・必要性・実施時期を整理して判断できるよう、管理の実務をわかりやすく伝える。
プロフィールを見る → - 運営
- TLL合同会社宅地建物取引業 東京都知事(1)第108202号住宅宿泊管理業 国土交通大臣(01)第F03424号
記事中のデータは出典と集計時点を明記しています。相場や制度は変わることがあるため、個別の判断は最新情報と専門家へのご相談のうえで行ってください。







