収益物件(一棟アパート・マンション)売却の流れ|査定から決済までの5ステップと費用・税金
一棟アパートや一棟マンションを売却するとき、自宅の売却と大きく違うのは「入居者が住んだまま売る(オーナーチェンジ)」ことと、「価格が家賃収入でほぼ決まる」ことです。流れを知らずに進めると、空室を埋めるために賃料を下げて売却価格まで下げてしまう、決済直前に必要書類が揃わない、といったことが起こります。
この記事では、収益物件の売却を査定から決済・引渡しまで5つのステップに分けて、各段階でオーナー様がやること、かかる費用と税金、本人が立ち会えない場合の進め方を解説します。
収益物件売却の全体の流れ
査定から引渡しまでは、物件の状態や買主の融資にもよりますが、数か月かかるのが一般的です。先に全体像を押さえておくと、「いつまでに売りたいか」から逆算して準備ができます。
| ステップ | 主な内容 | オーナー様がやること |
|---|---|---|
| 1. 査定 | 賃料・利回り・土地建物の評価から価格を出す | レントロール・賃貸借契約書・固定資産税の納税通知書を用意 |
| 2. 媒介契約(または買取) | 不動産会社と契約し、売出価格を決める | 一般・専任・専属専任、買取から選ぶ |
| 3. 売却前の準備 | 書類の整理、空室・境界・修繕履歴の確認 | 管理会社から資料を集める、測量の要否を確認 |
| 4. 売買契約 | 条件交渉のうえ契約、手付金を受け取る | 物件状況報告書・付帯設備表を正直に記入 |
| 5. 決済・引渡し | 残代金の受領、登記、賃貸の引継ぎ | ローン完済・抵当権抹消、入居者と管理会社への通知 |
ステップ1 査定:価格は「賃料 ÷ 利回り」でほぼ決まる
収益物件の査定では、主に次の3つの方法を組み合わせます。
- 収益還元法:年間の賃料収入(またはそこから経費を引いた純収益)を、そのエリア・築年数で期待される利回りで割って価格を出す方法。投資家が買主になる収益物件では、これが価格の中心になります。
- 積算法(原価法):土地の価格と、建物を今建て直した場合の価格から経過年数分を差し引いて出す方法。買主の銀行が融資額を決めるときに重視するため、積算価格が低い物件は買主が融資を受けにくく、価格交渉の材料になりやすくなります。
- 取引事例比較法:近隣の似た物件の取引価格と比べる方法。
参考として、Urbalytics に掲載された東京都内の一棟物件の売出事例から、駅ごとの表面利回り(年間賃料 ÷ 売出価格)の中央値を集計しました。
| 最寄駅 | 集計件数 | 表面利回り(中央値) |
|---|---|---|
| 池袋 | 167件 | 4.7% |
| 中野 | 122件 | 4.6% |
| 練馬 | 72件 | 4.8% |
| 蒲田 | 131件 | 5.1% |
| 北千住 | 177件 | 5.5% |
出典:Urbalytics(2026年9月集計)。売出価格ベースの数値で、成約価格とは異なります。同じ駅でも築年数・構造・駅距離によって利回りには大きな幅があります。
この「賃料 ÷ 利回り」の関係から、賃料を下げると売却価格も下がることがわかります。たとえば満室時の年間賃料が1,200万円の物件を利回り5.0%で評価すると2億4,000万円です。ここで空室を埋めるために10室の賃料を月5,000円ずつ下げると、年間賃料は60万円減り、同じ利回りで評価した場合の価格は単純計算で1,200万円下がります。売却を考え始めたら、賃料を大きく下げて埋めるより、適正な賃料で募集を続けるほうがよい場合が多いです。
ステップ2 媒介契約:一般・専任・専属専任と「買取」
売出価格が決まったら、不動産会社と媒介契約を結びます。媒介契約には3種類あり、有効期間はいずれも最長3か月です。
| 一般媒介 | 専任媒介 | 専属専任媒介 | |
|---|---|---|---|
| 依頼できる会社 | 複数社 | 1社のみ | 1社のみ |
| 自分で見つけた買主との取引 | 可 | 可 | 不可 |
| レインズへの登録 | 義務なし | 契約から7営業日以内 | 契約から5営業日以内 |
| 売主への活動報告 | 義務なし | 2週間に1回以上 | 1週間に1回以上 |
一般媒介は複数社に依頼でき、レインズに載せずに売り出すこともできるため、近隣や入居者に知られずに進めたい場合に向いています。一方で報告義務がなく、各社が積極的に広告しにくいという面もあります。売却活動に自分も関わって条件を詰めたい方は一般媒介、窓口を一本化して早めに売りたい方は専任・専属専任が向いています。
仲介ではなく「買取」を選ぶケース
不動産会社に直接買い取ってもらう方法もあります。買主を探す期間がないぶん現金化が早く、契約不適合責任を免責にする条件で契約できることが多いのが特徴です。価格は仲介で一般の投資家に売る場合より低くなる傾向があるため、「早さ・手間」と「価格」のどちらを優先するかで選びます。築年数が古い、空室が多い、再建築不可など、融資がつきにくく一般の買主が見つかりにくい物件では、買取のほうが現実的な場合もあります。
ステップ3 売却前の準備:書類と物件を整える
収益物件の買主は、購入判断と銀行への融資申込みのために多くの資料を求めます。早めに揃えておくと、買付が入ってから契約までが短くなります。
- レントロール(部屋ごとの賃料・共益費・敷金・契約開始日の一覧)
- 各室の賃貸借契約書、保証会社の契約内容
- 固定資産税・都市計画税の納税通知書
- 登記識別情報(権利証)、建物図面・測量図
- 確認済証・検査済証
- 修繕履歴(外壁塗装、屋上防水、給湯器・設備の交換時期など)
- 管理委託契約書、建物管理(清掃・点検)の契約内容
あわせて次の点も確認しておきます。
- 境界:土地付きの一棟物件では、買主から確定測量を求められることがあります。隣地や道路との立会いが必要で、数か月かかる場合もあるため、要否を早めに確認します。
- 空室:ステップ1のとおり、賃料を大きく下げずに適正な賃料で募集します。
- 見た目:共用部の清掃や簡単な補修だけでも、内見時の印象は変わります。大規模な修繕は費用を価格で回収できるとは限らないため、実施前に不動産会社と相談します。
ステップ4・5 売買契約から決済・引渡しまで
売買契約
買主が見つかると、希望価格・支払方法・引渡し時期などを記した買付証明書(購入申込書)が届きます。条件がまとまれば売買契約を結び、手付金を受け取ります。手付金は売買代金の5〜10%程度が目安です。
契約時には、物件の状態を「物件状況報告書(告知書)」と「付帯設備表」に記入します。雨漏り・シロアリ・設備の故障、家賃の滞納や入居者とのトラブルなど、知っていることは正直に書きます。2020年4月の民法改正以降、売主は契約内容と異なる引渡しをした場合に契約不適合責任を負います。個人の売主の場合は、特約で責任を負う期間を限定したり免責にしたりすることもできるため、どこまで負うかを契約前に確認しておきます。
決済・引渡し
決済日には、買主から残代金を受け取り、司法書士が所有権移転の登記を申請します。ローンが残っている場合は、同じ日に完済して抵当権を抹消します。オーナーチェンジならではの精算・手続きは次のとおりです。
- 敷金:入居者から預かっている敷金は、買主に引き継ぎます(売買代金と相殺して精算するのが一般的です)。
- 当月の賃料:引渡し日を基準に日割りで精算します。
- 固定資産税・都市計画税:その年の税額を、引渡し日を基準に日割りで精算します。
- 入居者・管理会社への通知:オーナー変更と賃料の振込先変更を知らせます。
- 鍵・書類の引渡し:各室と共用部の鍵、賃貸借契約書の原本、設備の取扱説明書などを渡します。
売却にかかる費用と税金
| 費用 | 目安・計算方法 |
|---|---|
| 仲介手数料 | 売買価格 × 3% + 6万円 + 消費税(売買価格400万円超の場合の上限額)。買取の場合は不要 |
| 印紙税(売買契約書) | 5,000万円超1億円以下は3万円、1億円超5億円以下は6万円(軽減措置。2027年3月31日までに作成する契約書が対象) |
| 抵当権抹消費用 | 登録免許税(不動産1個につき1,000円)+司法書士報酬 |
| ローンの繰上返済手数料 | 金融機関・契約内容により異なる |
| 測量費 | 確定測量を行う場合。隣地の数や道路との境界確認の有無で変わるため見積りで確認 |
個人で所有している物件を売って利益(譲渡所得)が出た場合は、所得税・住民税がかかります。譲渡所得は「売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)」で計算し、税率は所有期間で変わります。
| 区分 | 所有期間(売却した年の1月1日時点) | 税率(所得税・復興特別所得税・住民税の合計) |
|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 20.315% |
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 39.63% |
所有期間は「売った日」ではなく「売却した年の1月1日時点」で判定するため、取得から丸5年を過ぎていても短期になることがあります。また、自宅の売却で使える3,000万円の特別控除は、賃貸用の収益物件には使えません。法人で所有している場合は法人税の計算になります。税額は個別の条件で変わるため、税理士に確認することをおすすめします(税率は2026年時点)。
本人が立ち会えないとき:代理人による売却と海外在住の場合
入院中・高齢・海外在住などで売主本人が契約や決済に立ち会えない場合は、代理人に売却を任せることができます。ただし代理人による取引は、なりすましなどの不正(いわゆる地面師)に使われやすいため、買主・司法書士は慎重に確認します。スムーズに進めるには、次の点を最初に整えておきます。
- 委任状:代理人の氏名・住所、対象物件の表示、代理権の範囲(契約の締結だけか、代金の受領も含むか)、有効期限、委任日を明記し、本人が実印で押印します。「一切を委任する」のような範囲のあいまいな書き方は避けます。
- 本人の書類:印鑑登録証明書、本人確認書類、登記識別情報(権利証)。登記上の住所が現住所と違う場合は住民票なども必要です。
- 代理人の書類:本人確認書類、印鑑登録証明書(法人が代理人の場合は登記事項証明書)。
- 本人の意思確認:代理人がいても、司法書士が本人に売却の意思を確認します。面談や電話の日程を事前に調整しておきます。
海外にお住まいの日本国籍の方は、印鑑登録証明書の代わりに在外公館で発行される「署名(サイン)証明」を、住民票の代わりに「在留証明」を使うのが一般的です。外国籍の方は、本国の公証制度による宣誓供述書などで代えることになります。取得に時間がかかるため、売却を決めた段階で準備を始めます。
まとめ
- 収益物件の価格は「賃料 ÷ 利回り」でほぼ決まる。売却前に賃料を大きく下げると、価格も下がる。
- 媒介契約は一般・専任・専属専任から、関わり方と売却スピードの希望で選ぶ。早さや手間を優先するなら買取も比較する。
- レントロール・修繕履歴・境界などの資料を先に揃えると、契約までが短くなる。
- 税率は売却した年の1月1日時点で所有5年超かどうかで変わる。
- 本人が立ち会えない場合は、委任状と本人確認書類を早めに準備する。
この記事について
- 執筆
- TLL編集部
- 運営
- TLL合同会社宅地建物取引業 東京都知事(1)第108202号住宅宿泊管理業 国土交通大臣(01)第F03424号
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