
一棟アパートは買取と仲介どちらで売る? 手取りが並ぶ分岐点を東京3駅の利回りで試算
一棟アパートを売ろうと考えたとき、最初に迷うのが「不動産会社に買い取ってもらうか、仲介で投資家を探してもらうか」です。一般には「早く売るなら買取、高く売るなら仲介」と言われますが、一棟ものの場合は仲介手数料や成約までの値下げ、融資の付き方まで含めて比べないと、どちらが得かは判断できません。
この記事では、買取と仲介の違いを整理したうえで、「買取価格が仲介の想定価格の何%以上なら、手取りはほぼ同じになるのか」を、Urbalytics の売出データ(東京3駅の表面利回り)をもとに試算します。
この記事のポイント
- 仲介手数料(上限)だけを差し引くと、買取価格が仲介の想定価格の約96.7%であれば、手取りはほぼ同じになります(年間賃料1,000万円の一棟アパートでの試算)。
- 仲介で成約時に想定より10%値下がりする場合、手取りが並ぶ買取価格は想定価格の約87.0%まで下がります。
- 一棟ものの表面利回り中央値は、三軒茶屋4.11%・池袋4.68%・北千住5.49%です(2026年9月、Urbalytics 売出データ)。同じ家賃でも仲介の想定価格は約6,100万円違います。
買取と仲介の違いは「誰が買うか」
買取は不動産会社が自ら買主になる売り方で、仲介は不動産会社が売主と買主(主に個人・法人の投資家)の間に入る売り方です。この「買主が誰か」の違いから、価格・期間・手数料・売却後の責任の違いが生まれます。
| 比較項目 | 買取 | 仲介 |
|---|---|---|
| 買主 | 不動産会社 | 個人・法人の投資家 |
| 価格の決まり方 | 再生・再販の費用とリスクを見込んで会社が提示 | 市場で買主を募り、交渉で決まる |
| 成約までの期間 | 条件が合えば短い | 買主探索・融資審査に時間がかかることがある |
| 仲介手数料 | かからない | かかる(上限は売買価格×3%+6万円+消費税) |
| 買主の融資 | 影響を受けにくい | 買主の融資が通るかで成約が左右される |
| 契約不適合責任 | 免責の特約とすることが多い | 売主が一定期間負うことが多い |
| 情報の広がり | 限られた関係者で進められる | レインズ登録・広告で市場に出る |
一棟アパートで特に差が出るのが、買主の融資です。投資家の多くは借入で購入するため、築年数が古い、検査済証がない、再建築不可といった物件は融資が付きにくく、仲介では買主が限られます。一方、買取では会社が自己資金や自社の調達で購入するため、こうした物件でも価格の提示を受けられることがあります。
仲介で売ると想定価格はいくらになるか
仲介での想定価格は、「年間の収益 ÷ そのエリアで買い手が求める利回り」で見積もるのが基本です。考え方の詳細は一棟アパートの査定額の決まり方で解説しています。ここでは、満室時の年間賃料が1,000万円の一棟アパートを例に、3駅の利回り中央値で想定価格と仲介手数料を計算しました。
| 駅(区) | 集計件数 | 表面利回り 中央値 | 仲介の想定価格 | 仲介手数料(上限・税込) | 手数料控除後 |
|---|---|---|---|---|---|
| 三軒茶屋(世田谷区) | 135件 | 4.11% | 約2億4,330万円 | 約810万円 | 約2億3,520万円 |
| 池袋(豊島区) | 167件 | 4.68% | 約2億1,370万円 | 約712万円 | 約2億660万円 |
| 北千住(足立区) | 177件 | 5.49% | 約1億8,220万円 | 約608万円 | 約1億7,610万円 |
出典:Urbalytics 売出データ(東京都内の一棟もの=アパート・マンション・ビルを含む。年間想定賃料の記載がある売出情報。2026年9月29日集計)。想定価格=年間賃料1,000万円 ÷ 表面利回り中央値。仲介手数料は宅地建物取引業法に基づく上限額(売買価格×3%+6万円)に消費税10%を加えた試算です。
いずれの駅でも、仲介手数料の上限は想定価格の約3.3%にあたります。つまり手数料だけで比べれば、買取価格が仲介の想定価格の約96.7%あれば手取りは並ぶ計算です。ただし、これは「売出の想定価格どおりに成約した場合」の話です。
手取りで比べると、買取はいくらなら見合うのか
売出価格どおりに成約するとは限りません。交渉や販売期間の長期化で価格を下げると、仲介の手取りは減り、買取と手取りが並ぶ水準も下がります。北千住の例(想定価格 約1億8,220万円)で、成約時の値下がり幅ごとに試算しました。
| 成約時の値下がり(想定比) | 仲介の成約価格 | 仲介の手取り(手数料控除後) | 手取りが並ぶ買取価格(想定価格比) |
|---|---|---|---|
| 0% | 約1億8,220万円 | 約1億7,610万円 | 96.7% |
| 5% | 約1億7,300万円 | 約1億6,730万円 | 91.8% |
| 10% | 約1億6,390万円 | 約1億5,850万円 | 87.0% |
| 15% | 約1億5,480万円 | 約1億4,960万円 | 82.2% |
出典:上表の北千住の利回り中央値(Urbalytics 売出データ、2026年9月29日集計)をもとにした試算。印紙税・抵当権抹消費用・譲渡所得税など、どちらの売り方でも発生する費用は含めていません。
この表は「買取価格がこの割合を上回れば、買取のほうが手取りは多い」という分岐点を示すものです。実際の買取価格は物件の状態・立地・権利関係で大きく変わるため、一律の割合はありません。比べるときは、買取の提示額と、仲介で現実に成約しそうな価格から手数料を引いた額を並べて見ることが大切です。
なお、仲介で販売している間も家賃収入は入り続けます。販売期間が長いこと自体は損失ではありませんが、空室の増加、大規模修繕の時期、相続税の申告・納付期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)などがある場合は、期間の長さが実質的なコストになります。
買取と仲介、それぞれ向いているケース
買取が向いているケース
手取りの試算で差が小さい場合や、次のような事情がある場合は、買取を比較対象に入れる価値があります。
- 融資が付きにくい物件:検査済証がない、再建築不可、容積率・建ぺい率の超過、築古の木造など。仲介では買主が限られ、大きな値下げが必要になりやすい物件です。
- 期限がある売却:相続税の納付、借入の返済、共有者間の分配など、時期が決まっている場合。
- 空室や修繕の負担が重い:空室の募集や大規模修繕をこれ以上自分で進めたくない場合。
- 売却を周囲に知られたくない:入居者や近隣、取引先に知られずに進めたい場合。
TLLの仕入基準(当社サイトで公開、2026年9月時点)では、一棟収益物件は一都三県・駅徒歩15分以内・価格10億円までを対象とし、利回りの下限は設けていません。検査済証がない物件も対象で、再建築不可や容積率超過の物件は個別に検討します。同ページに掲載している2024年5月〜2026年5月の買取実績12件のうち8件が一棟物件で、再建築不可の案件も2件含まれます。
仲介が向いているケース
反対に、次の条件がそろっている物件は、仲介で市場に出したほうが手取りが多くなる可能性が高いといえます。
- 駅に近く、築年数が比較的浅いなど、投資家の融資が付きやすい
- 満室に近く、賃料が周辺相場と大きくずれていない
- 売却時期に余裕があり、3〜6か月程度の販売期間を取れる
- レントロールや修繕履歴などの資料がそろっている
こうした物件は複数の投資家から購入の申込みが入りやすく、値下げ幅が小さく収まる傾向があります。上の試算でいえば、値下がりが5%以内に収まる場合、買取価格が想定価格の約92%を下回るなら仲介のほうが手取りは多くなります。
契約不適合責任と入居者の扱い
売却後の責任も、買取と仲介で差が出るポイントです。
売主は、引き渡した建物が契約内容に適合しない場合(雨漏りや給排水管の不具合など)、修補や代金減額などの責任を負います(契約不適合責任)。この責任は特約で免除できますが、売主が知りながら告げなかった事実については免除されません(民法572条)。不動産会社が買主となる買取では免責の特約とすることが多い一方、仲介で個人の投資家に売る場合は、引渡しから一定期間は売主が責任を負う契約が一般的です。築古の物件ほど、この違いは重くなります。
入居者がいるまま売る「オーナーチェンジ」は、買取でも仲介でも可能です。賃貸人の地位は買主に引き継がれ、敷金の返還義務も買主に移るため、売却を理由に入居者に退去してもらう必要はありません。
迷ったときの進め方
最初からどちらか一方に決める必要はありません。一棟アパートでは、次の順で比べるのが現実的です。
- 買取の提示額を先に確認する:買取で「最低限いくらで売れるか」の下限が分かります。
- 仲介の成約見込み価格を確認する:売出価格ではなく、成約しそうな価格と販売期間の見立てを聞きます。
- 手取りで並べる:仲介は手数料と値下げの可能性を差し引き、上の分岐点の表と照らし合わせます。
仲介を選ぶ場合、専任媒介・専属専任媒介の契約期間は3か月以内と定められています。まず仲介で市場の反応を見て、契約期間の満了時に条件が合わなければ買取に切り替える、という進め方もできます。ただし、専任媒介・専属専任媒介ではレインズへの登録が義務づけられ(休業日を除き、専任媒介は7日以内、専属専任媒介は5日以内)、物件の情報が市場に出る点は踏まえておきましょう。
売るか持ち続けるかで迷っている場合は、管理の見直しで収支が改善する余地がないかも確認しておくと判断しやすくなります。資産管理・運用のご相談もあわせてご活用ください。
よくある質問
Q. 一棟アパートの買取価格は、仲介の何割くらいになりますか?
物件の状態・立地・権利関係で大きく変わるため、一律の割合はありません。手取りで見ると、年間賃料1,000万円・北千住の利回り中央値での試算では、仲介で値下げなく成約するなら想定価格の約96.7%、10%値下がりするなら約87.0%が、買取と仲介の手取りが並ぶ水準です。
Q. 入居者がいるまま買取してもらえますか?
できます。賃貸人の地位と敷金の返還義務は買主に引き継がれるため、売却のために入居者に退去してもらう必要はありません。
Q. 買取なら契約不適合責任は免除されますか?
不動産会社が買主となる買取では、免責の特約とすることが多くあります。ただし、売主が知りながら告げなかった不具合は免責されないため、把握している不具合は事前に伝えておく必要があります。
Q. 仲介で売り出したあとに買取へ切り替えられますか?
切り替えられます。専任媒介・専属専任媒介の契約期間は3か月以内なので、期間満了のタイミングで見直すのが一般的です。
Q. 検査済証がないアパートでも買取してもらえますか?
会社によって対応は異なります。TLLの仕入基準では、検査済証がない一棟収益物件も買取の対象としています。
まとめ
- 買取と仲介の違いは「誰が買うか」。一棟アパートでは、買主の融資が付くかどうかが仲介での売れ方を大きく左右します。
- 仲介手数料の上限は想定価格の約3.3%。値下げなく成約するなら、買取価格が想定の約96.7%で手取りは並びます。
- 成約時に10%値下がりすると、手取りが並ぶ買取価格は想定の約87.0%まで下がります(北千住の利回り中央値5.49%での試算、2026年9月)。
- 融資が付きにくい物件、期限のある売却、売却を知られたくない場合は、買取を比較に入れる価値があります。
実際の手取りは物件ごとに異なります。買取の提示額と仲介の成約見込みを、同じ物件の数字で並べて比べることをおすすめします。
トップ画像:Photo by Dorothy Kuromi on Unsplash(イメージ)
この記事について
- 執筆
- 運営
- TLL合同会社宅地建物取引業 東京都知事(1)第108202号住宅宿泊管理業 国土交通大臣(01)第F03424号
記事中のデータは出典と集計時点を明記しています。相場や制度は変わることがあるため、個別の判断は最新情報と専門家へのご相談のうえで行ってください。
